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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)112号 判決

原告

丸長産業株式会社

右代表者

宮丸行雄

右訴訟代理人

藤井博盛

被告

株式会社本州木材

右代表者

矢島光

右訴訟代理人

長橋勝啓

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一主位的請求について

1  〈証拠〉によれば原告は訴外小野田に対して請求原因1記載の債権(合計金五四五万三四四八円)を有していることが認められる。

2  ところで本件において債権者代位権の目的となる権利について原告は小野田が本州林材(編注・被告が昭和五二年一〇月一二日に吸収合併する。)に対して不法行為債権を有していると主張するのに対して、被告は抗弁として譲渡担保権に基づく正当な権利行使であると主張するのでこの点について以下検討する。

(一)  〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められる。

本州林材はかねてから小野田に対し継続的に新建材を卸売していたが昭和五〇年三月末頃にいたり、小野田は同月末日に満期の到来する手形金二〇〇万円の融資方を本州林材の甲府営業所長嶋田清朗に依頼した。しかし、当時既に小野田は本州林材に対し一〇〇〇万円近くの手形ならびに買掛債務を負つていた関係上、本州林材は小野田に対して現在および将来有する一切の債権を担保するため譲渡担保権を設定することを条件として同年三月末日に二〇〇万円を同人に貸付けることとし、そのころ(公正証書の作成は同年四月一六日)本州林材と小野田との間で、本州林材が小野田に対して現在および将来有する一切の債権を担保するため小野田の営む建材店に存する木材並びに製材品その他一切の商品につき(将来右店舗に搬入される小野田所有の物件はその時に譲渡担保の目的となる。また、小野田は商品を通常の営業の目的のために第三者に有償で譲渡することができる。)譲渡担保権を設定し、小野田は右物件を本州林材のために代理占有するが、小野田が債務の弁済を怠つたなどの場合には本州林材は催告を要せず直ちに右物件を取戻すことができるものとし、右物件を任意の時期に相当な方法、条件において処分の上その換価金を以つて債権の弁済に充当するか自らその価格で右物件を代物弁済として取得できる旨の譲渡担保契約を締結した。

以上の事実が認められ〈る。〉

(二)  原告は右譲渡担保契約は目的物件につき特定性を欠くから無効である旨主張するが、右目的物件は小野田の営む建材店所在のすべての木材ならびに製材品その他一切の商品を指すものとして十分特定しているものであり、前記認定のとおり、右のような在庫商品は具体的にはその内容が常時変動するものではあるが、その構成部分を離れた全体として独立の経済的価値を認められるものであつて、そのように変動する状態においてそのすべてが一個の集合物(原告はこの点につき集合物とは一定の場所に固定された数個の物の集合をいうと主張するが、在庫商品のように内容が変動しながらも全体としてなお一個の独自の経済的価値を認められる多数の物の集合も法律的な排他的支配の可能性がある以上一個の集合物といえることは明らかである。)として担保の目的となり、最終的に債務不履行による処分清算または確定的所有権の帰属時等担保権実行の際の商品がその具体的内容として確定される関係にあるから、その意味で特定性を失うものではなく、原告の右主張は理由がない。

また原告は右譲渡担保契約は他の債権者の共同担保力を全く排斥する契約であり公序良俗、信義則に反し無効であると主張するが、前述したとおり在庫商品のような集合物はこれを構成する個々の商品としてよりも、その統一ある独立の集合体として一層大きな経済的価値をもつものであるから、これを独立の一物と認めて所有権ことに担保の目的の為にする譲渡の対象となしうるものとすることが経済的要請にも合致するし担保制度に関する法律の目的にも適合するものであり何ら公序良俗、信義則に反するものでない。このことは財団抵当等の集合物に対する担保制度が認められていることからも明らかであり(本件のような譲渡担保の場合には公示方法がないからといつて、その一事で公序良俗、信義則に違反するとはいえない。)、原告の右主張もまた理由がない。

以上よりすれば前記譲渡担保契約は有効なものと認めることができる。

(三)  ところで〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められる。

昭和五〇年九月一〇日小野田は二九八万円につき不渡手形を出して倒産したが九月一〇日当時にも本州林材は同人に対して一〇〇〇万円余り(一〇九八万一五一三円)の債権を有しており、そのうちの一部の手形が同日不渡りになつたので、同年九月一一日前記譲渡担保の契約条項に従つて、同人の店舗所在の在庫商品を同人立会のもとに引渡を受けた。

その後本州林材は小野田との間で右商品の評価方法、評価基準について数回交渉を重ねたが、同人が右商品の評価額を強硬に一四〇〇万円以上と主張するので、評価額について小野田の意向にそうことは不可能であると判断し、数人の同業者らに右商品の評価を依頼し、その中で最高額の評価(九一二万六一六六円)を採つて自己の所有に帰属させ、その代価を債権の弁済に充当し、その旨昭和五一年一一月一一日同人に到達した書面で通知し、その後右商品を第三者に処分したが処分価格は評価額を下廻つた。

〈証拠〉には昭和五〇年九月一一日小野田は右商品を本州林材に引渡したのではなく単に預けたものであるとの記載があり、〈証言〉中にもこれに沿う部分があるが、〈証拠〉によれば、小野田はあらかじめ譲渡担保契約の内容を理解して公正証書を作成している上に、同日乙第一一号証の引渡書に右契約上の義務を履行するという意味で「債務として品物を引渡す」と署名していることが認められるので、〈証拠〉はにわかに措信しがたく、他に右認定を左右する証拠はない。

(四)  以上の事実よりすれば、本州林材が昭和五〇年九月一一日に本件商品の引渡を受け、同年一一月一一日に小野田に対し前記評価額により自己の所有とする旨通知した行為は、前記譲渡担保契約に基づく担保権の実行(清算)として適法になされたものであり、原告の主張するような不法行為は成立しない。

3  従つて、原告の主位的請求は債権者代位権の目的となる権利が存在しないことになり、その余の点を判断するまでもなく理由がない。〈後略〉

(矢崎秀一)

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